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ワインでモテる人モテない人 – バーでのワインの選び方 -

シャンパン画像

白金台の交差点から路地裏に入った住宅街に、そのワインバーはあった。
先月このあたりで人気だったスーパーマーケットが閉店し、近々、この街にはとうてい不釣り合いな激安量販店ができるとの噂で、あたりのシロガネーゼも気が気じゃない。もちろん、このワインバーのマスターも、そこに集うワインラバーたちも、静かな白金が、どう変わってしまうのか心配している。

バーのマスターが右端の黒のノースリーブ女性に聞いた。
「何かお飲物、飲まれてますか?」
「いや……、ちょっと待ちます」

一方、左端のカシュクールの女性に、マスターはこう言った。
「先ほど、ドナルド様から少し遅れるとお電話がありまして、まずはこれを飲んでて下さいと、ご伝言がありましたので」と、桜色のシャンパンが差し出された。

右端の女性がメールを確認すると、そこには、「少し遅れるので、何か先に飲んでて下さい」とあるが、そう言われて先に飲める女性と、遠慮して待つ女性がいるということを、ジェームスはまだ理解していなかった。

チャラい既婚者 ドナルド君

とそこへ、いつものようにクールなジェームスが現れ、まだ何も飲んでない様子の彼女に気付くと、さらりと「泡を2つ」と注文し、席についた。

カウンターの右端に、シャンパングラスが2つ並び、ジェームスと彼女が乾杯した頃、金髪ひげメガネのドナルドが笑顔で現れ、左端のカウンターに座った。
ドナルドは迷わず生ビールをオーダー。

そう、この店で、頼んでから最も速く出て来るドリンクが生ビールであることを分かっての注文だ。
人を待たせてしまい、1秒でも速く乾杯したいときのシャンパンが出るまでの時間は、生ビールが出るまでに比べ、異常に長く感じてしまうものだ。

キザなワインおたく ジェームズ君

右端のジェームスが、今日は何を飲もうか、彼女と語り始めた。
「俺が一番、かっこいいと思う注文の仕方で頼んでみようかな、、、、、」
「ええ、何、何〜?」

「たとえばね、“ムートンのシャガール、ありますか?”とかって頼むの」
「え〜〜、何それ、お洒落〜」

ジェームスは水を得た魚のように語りだした。
「シャトー・ムートン・ロートシルトって聞いたことあるでしょ? フランスの有名なシャトーね。そのラベルは、年によって違う芸術家に描かせてるのよ。
1970年はシャガール、73年はピカソ、75年はウォーホル、といった感じで。
だから、“70年のムートン”って頼まなくても、“ムートンのシャガール”って言えば、必ず70年ものを意味するわけ」 
「なるほど〜。かっこいい。で、今日、それを飲むの?」
「マスター、ムートンのシャガール、あります?」 
「ええとですね……、ムートンのバリテュスなら、ございます」
「あっ、あ〜、バリテュスね、バリテュスかあ……、そうねえ〜」

ムートン1970 ムートン1993

マスターはそれが93年ものだと教えてあげるべきか迷っていた。

一方、左の端では、店の女性ソムリエと、ドナルドとの会話が続いていた。
「こちらが今日グラスでお飲みいただける白になります」
「6種類か、、、どうしようかな〜。口当たりが軽い順に並べるとどうなります?」

リースリング、シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン。
産地や年代などを見ながら、女性ソムリエは、右から軽い順に並べた。

「へえ〜。ドナさんのワインの選び方、いつもためになります」
「僕ね、葡萄の種類とか、作り手とか、聞いてもすぐ忘れちゃうのよ。正直、シャルドネぐらいしか分からないからね(笑)。そういえば、シャルドネで思い出したんだけど、“女優はシャルドネであれ”て言葉知ってる?」
「いえ、知らないです」
「川島なお美が言ってたんだけどさ、シャルドネという葡萄は、作り手や産地によって、いろんな色に染まれるんだってさ。つまり監督や作品によって、女優は、シャルドネのように変幻自在に演じろ、みたいなことだと思うのよ、多分」
「へえ、そのたとえ、分かりやすい!」
「でね、話し戻るけど。というように、シャルドネって言っても地域や作り手によって、全く味が違うわけで……。必ずしもシャルドネが全部自分に合うかなんて、分からないじゃない?」
「なるほど〜。確かにいろんなシャルドネがありますもんね」

リースリング、シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン

「だったら、もう、グラスで飲める白を、軽いほうから順番に飲んでいって、“コレ!”って思ったら、それおかわりする。恋愛と一緒よ」
「え、恋愛と一緒、なんですか?」

恋愛と一緒の意味を、ドナルドはこう説明した。

例えば、過去に小柄な女性と交際し、ちょっと良い印象だっただけで、“自分のタイプは小柄な女性”と決める男がいる。
だが、世の小柄な女性が全て自分に合うというのは幻想で、それはシャルドネがたまたま口に合ったからといって、世のシャルドネが全て自分好みとは限らないのと同じ。
ドナルドは、先入観なく、つねにフラットな気持ちで女性に接し、味わってみなければ分からないと考える。そのほうが、恋愛もワインも、意外な出会いがあり意外な相性が見つかるのだと、熱弁した。

「だから僕ね、モテる女性ってのは、先入観のない女性だと思うんだよね。男を選ぶとき、こうだからムリ、って決めてる女性は、もしかしたら、ほら、ここにこうボトルが並んでるじゃない?それを自分の先入観で飛ばしてしまうのと同じでね、飛び切り美味しいグラスワインを飲みそこねてるかも知れないわけよ」
「でも、直感も大事じゃないですか?」
「まあね。でも僕は、これ!って1本のボトルを選ぶよりも、こうやって、グラスで少しずつ、いろんなワインを飲むのが好きだな」
「ワタシも、いろいろ飲めるの好き〜」

ワインと女性の画像

ある人は言った。グラスであれこれ飲みたがる人は浮気性だと。
ドナルドは、そこも分かった上で、この会話をよくする。なぜなら、浮気性の男と浮気性の女の恋は、意外にもうまく行くことを知っているから。

ジャズが流れ、大人の男女が会話とワインを楽しむ時間。
そこに一人の見慣れぬ男性客が現れた。
「いやいや、迷ってもうたわ、しかし。
 いやあ、それにしてもお兄ちゃん、あれですな……」
カウンターのセンターに座り、大きな関西弁でマスターに語り始めた。

街とワインバーは似ている。
静かなワインバーに1人の声の大きな客が現れることによって、雰囲気が一変してしまうように、白金という静かな街が、あの激安店の登場により、そうなってしまわないと良いのだが。

空気の異変を感じたドナルドは、グラスを飲み干すと、彼女を連れてそそくさと次の店へと移動した。
一方のジェームスは、ボトルにまだまだ残った極上ワインを、耳障りな関西弁によってややクドさを感じながら、ひたすら飲み続けていた。
そこに今夜の答えを見たようだ。

  • ワインモテ教訓5
  • ワインモテ教訓6
人物紹介

ワインでモテるひとモテないひとバックナンバー

  • vol.6 まずはツボを刺激して相性を知るべし。結婚とは、コルクの折れたワインである
  • vol.5 男の浮気は冒険に満ちたレジャーである。女性のOKサインを読み解くべし。例えば「今日飲めてしまう」。
  • vol.4 女性は歴史は雑学を好まないというが、例外もある。ワインも女性も、ホメて、回して、ゆっくり花を開かすべし。
  • vol.3 先に飲んでるよと伝える相手は、彼女ではなく、マスター。ワインと恋愛は先入観が邪魔をし、直感が出会いを逃す。
  • vol.2 駅に遠きワインバーは、夢に近し。女は、語りすぎる男を嫌い、語らせてくれる夜が好き。
  • vol.1 男は歴史を語りたがり、女は時を共有したがる生き物だ。カウンターでは女性を左隣に座らせるべし。
すずきB

すずきB(すずき・びぃ)

放送作家。1970年、静岡県生まれ。早大在学中「さんまのナンでもダービー」で放送作家デビュー。現在、「秘密のケンミンSHOW」「ぷっすま」など担当。グルメ番組を多く企画構成する他、料理漫画の原案や、スターシェフのプロジェクトCHEF-1も手掛ける。食べ歩きとワインが趣味でブログに綴る。
電子書籍も人気。http://suzukib.net

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